本家[蒼見鳥] > もう一つの世界 > SS > 【貴族に生まれて】
SS:ヴーク
貴族に生まれる、と言うのは気楽なものではない。
少なくとも、ガーランド家の三男坊として生を受けたアーツ・レイクス・ガーランドにとっては、そうであった。
彼を含め、ガーランド家には五人の子息がいた。
そして、その全員に分けるほど、ガーランド家は領地にも財産にも恵まれていなかったのである。
それで、アーツは自然と騎士を目指し、武官となる道を選んだ。
戦場で武勲を立てれば、新たな領地を得、領主となることも出来るからだ。
客観的な人物評をするなら、文官のほうが向いていたかも知れないが、生憎と、戦時に安穏な宮中生活を可能とするような伝手が無かったのである。
結局、寒門の貴族であると言うことが、彼の人生を方向付けていったのであった。
そして、アーツの記念すべき初陣の日。
彼の上官となったのは、命令と言えば突撃しか知らないような男で、無謀な中央突破を何度も試みた挙句、自分の部隊を壊滅させてしまった。
アーツもその巻き添えを食い、本隊からはぐれ、彷徨っていたところを、ある傭兵部隊に拾われる。
運が良かったのか、悪かったのか。
その傭兵部隊は、別段、アーツの出自を気にする訳でなく、彼を受け入れた。
何故なら、その傭兵たちはアーツ以上に訳ありだったのである。
人狼や人虎といった獣人がいる。
ダークエルフがいる。
自分の身体をキメラ化した魔導士もいて、リザードマンもいた。
角や、鱗や、爪や、牙。
そう言うものを、具えた連中ばかりであった。
本国に戻っても、敗残の身で恩賞を受けられる筈も無く、また、無能な指揮官の下に就くことも嫌気が差していたアーツは、この傭兵たちの群れに加わることにしたのである。
実戦を知らなかったアーツは、その中で鍛えられ、数ヶ月が過ぎた。
そして、その傭兵たちの一団が、戦闘に勝利し、報奨金と物資を充分にせしめた夜のこと。
戦場から離れた、だだっ広い丘のそこかしこで炎が焚かれ、宴が続いていた。
いつもの事である。
勝ち戦の夜は、流した血と、引き裂いた肉を償うかのように、呑んで、喰う。
月が、天の上で、呆れたように白い貌で、その様を見守っている。
アーツは、一つの焚き火の炎の前に座っていた。
ちりちりと、頬が熱い。
「よう、アーツ、呑んでるか?」
濁り酒を呷りながら、横に広い身体つきのリザードマンが、アーツに近付いてきた。
焚き火の炎を、虹色に反射する鱗が、ぎらぎらと光っている。
もう、大分夜も更けているのだが、先刻から、獣人やリザードマンは、酒と食い物を一向に消費している。
「呑んでるよ、砕蛟」
アーツは杯を空にしながら、応えた。
『砕蛟』はサイコウと読む。
奇妙な響きの名だが、リザードマンの名とはそういうものらしい。
砕蛟は上半身には何も身に付けておらず、下半身にはゆったりとしたズボンを穿いていた。
皮製のベルトで、それを留めている。
右手にぶら下げた肉の塊をアーツに差し出した。
良く焼けていて、香ばしい匂いがする。
「悪いな」
言って、その肉を受け取る。
代わりに、自分の傍らの甕を傾け、砕蛟の杯に酒を注いだ。
アーツの容貌は、優しげであった。
日に焼けてはいるが、透明感を失わない茶色の髪が、耳を隠すぐらいに伸びている。
少し垂れ眼勝ちの灰色の瞳には、きつさは、余り、ない。
すっきりした鼻梁は、貴族らしい線の細さがあって、焼けた肉を食べるその所作も、手掴みでありながら、何処か、丁寧であった。
陽だまりで眼を細めている犬のような、そう言う風情がある。
砕蛟が、アーツの隣に、どっかりと座った。
注がれた酒を、ごくごくと喉を鳴らして、干していく。
「うめえ」
「旨いな」
リザードマンが短く言うと、アーツも短く応える。
アーツと砕蛟が座っているのは、宴会の中心からは外れた場所であった。
少し視線を遠めに遣れば、一際大きな炎の塊の周囲に、たくさんの獣人や、キメラの影が踊っているのが見える。
ぱきっ、とくべられた薪が弾けた。
ふぅ、とアーツが酒で熱を持った息を吐く。
炎が太い薪を侵食し、火の粉を散らす様を、アーツはぼんやりと眺めていた。
何だろうなあ。
アーツは、声に出す訳でもなく、そう思う。
自分の、今の境遇が、不思議であった。
確か、戦場に出た時は、功成り名を遂げる為に、剣を握っていた筈である。
しかし、そう言う野望のようなものは、一度の実戦で露と消えた。
もう、何処かの土地を拝領して地方領主になるだの、騎士となって名家に仕えるといった望みは、自分の胸の内にはない。
数ヶ月前まで、末流とは言え、自分が属していた筈の貴族的な世界が、ひどく遠く感じられた。
しかし、では今の自分の状況が満足のいくものかというと、そうとも言い切れない。
いや、別段、不満がある訳ではないのだが、何か引っ掛かるものがある。
只、その引っ掛かるものが上手く言語化できず、それが、『何だろうなあ』と言う呟きとして自分の胸中に湧いてくるのであった。
「アーツ・レイクス・ガーランド」
不意に、アーツを呼ぶ声がする。
この傭兵団で、自分を態々フルネームで呼ぶのは一人しか居ない。
「何だよ」
アーツが、焚き火から視線を動かして見遣ると、焚き火を挟んだ向こう側に、人影があった。
最近、この傭兵の一団に加わった、亜人の女性である。
名をシュマリと言う。
狐に似た大きな三角形の耳と、ふさふさした尻尾を具えていた。
肩より長く伸びた髪も、その尻尾も、やや濃い目の紅茶を連想させる紅である。
その顔付きに、何処か獣っぽいものがあった。
しかし、それが異様さを感じさせることは無く、寧ろ、調和の取れた美しさがある。
目付きは、やや、きつかったけれども。
「なに、あなたとあたしと、どっちの腕が立つか、比べようってことになったのよ」
「はあ?」
思わず、訊き返す。
何で、仲間内でそんなことをしなきゃいけないのか。
「お互い、自分の命を預けることもあるんだから、相手の力量は知っておいたほうがいいでしょう?」
アーツの胸中の疑問を見抜いたように、亜人が言葉を続ける。
よく見れば、シュマリはブレストメイルを身に付けていて、腰には長剣を下げていた。
やる気満々である。
「それとも、新入りにぼこられるのが怖い? 貴族のお坊っちゃん」
そう言って、挑発的に胸を反らす。
鎧に包まれていても目立つ豊かな胸が、なかなか扇情的であった。
「おう、やれやれ」
「余興、余興」
「さて、見ものよな」
何時の間にやら、アーツの周りを傭兵団の面々が固めている。
口々に、アーツとシュマリをけしかけていた。
シュマリの口の端が、笑いの形に吊り上るのが、アーツの眼に留まる。
む、とアーツは唸った。
シュマリの思惑が、何となく分かったからである。
この、亜人の女戦士はアーツより後に傭兵団に加わっている。
つまり、アーツの後進に当たるのだが、自分に絡んでくることが多かった。
『どんな奴と戦ったことがあるのか』
『どれだけの戦場を経験しているのか』
『どんな戦い方をするのか』
そういうことを訊いてくる。
要するに、自分よりほんの少し先に入ったと言うだけの人間が、序列では上に居ることが気に喰わないらしい。
しかし、アーツと直接戦って勝てば、その序列は引っくり返る。
少なくとも、シュマリの中ではそうなるであろう。
「……どーしても、やるのか」
アーツが、気の進まない表情と声で言った。
シュマリが、はっきりと笑みを浮かべて応える。
「只の腕試しよ。固くなりなさんな」
態とらしく、軽い口調であった。
ふう、とアーツは溜息を一つ漏らす。
そして、傍らの自分の得物を手に取り、立ち上がった。
「へえ、『雑種』とは、珍しいわね」
シュマリが、眼を細める。
アーツの愛用の武器は、バスタードソード――片手半剣と呼ばれる代物であった。
斬ることにも、突き刺すことにも使用できるため、バスタード(雑種、私生児)の名を冠している。
とは言うものの、その利便性が逆に『正道に相応しからず』として、騎士たちには敬遠される武器でもあった。
ふふ、とシュマリが笑いを零す。
アーツは貴族出身で、騎士を目指していたと言う。
ならば、騎士が扱うべき広刃剣の扱いには慣れているだろうが、片手半剣ではそうはいくまい。
刀身の長さが違い、重さが違い、重心が違うのだ。
恐らく、広刃剣以上の威力を求めて、傭兵となってから片手半剣に変えたのだろう。
いけるな、とシュマリは心中で、ほくそ笑んだ。
慣れていない武器を使う貴族上がりに負ける筈が無い。
「じゃ、やりましょうか」
シュマリが、笑みを表情に湛えたまま、アーツに言う。
その言葉に応えず、アーツは剣を構えた。
まるで、長い刀身を背負うような構えである。
「いつから始める?」
「もう、始まってるわよ」
そう、シュマリが言葉を返した瞬間――。
どん、と地響きに似た音を立てて、アーツが踏み込んだ。
そのアーツの動きに、シュマリが反応できたのは、全くの勘だった。
兎に角、背中に嫌な何かが疾って、それで、辛うじて身を捩ったのである。
そのシュマリの真横を、雷光の様な斬撃が空気を裂いて振り下ろされ、鋼の刃が地面を断ち割った。
刀身の半ば以上が、固い地面に埋まる。
それを、アーツが無理矢理引っこ抜いた。
ぼこり、と土の塊が、片手半剣から零れ落ちる。
砂埃でもなく、土煙でもない。
握り拳ぐらいある、ごろりとした塊であった。
地面を抉り、石を割る剛剣。
想像していたのとは、全く異なるアーツの剣術に、シュマリの全身にじっとりした汗が流れ落ちた。
あんなものを食らえば、まず、只では済まない。
それどころか、剣で受け止めても、その衝撃を殺せるかどうか。
下手をすれば、受けた腕ごと、使いものにならなくなりそうであった。
どうする?
その逡巡が、シュマリの次の動作を遅らせた。
そして、アーツへ、次の斬撃に入るだけの猶予を与える。
アーツが引き抜いた片手半剣と共に、身体ごと回転する。
ごう、と旋風が巻いた。
それは、刃を持った竜巻だった。
ちっ。
シュマリが、舌打ちした。
躱そうにも、そんな暇など全くない、容赦の無い一撃である。
仕方なく、アーツの一撃を長剣で受けた。
がん、と固い音が響く。
防御した筈の剣が、易々と跳ねた。
アーツの、全身を叩きつけるような剣を、防げない。
剣を握っていた手が、痺れていた。
見れば、もう、アーツは剣を上段に高々と構えている。
その切っ先から、殺気が熱風のように吹き付けた。
再度、地響きの如き踏み込みで、アーツが剣を振り下ろす。
死ぬ!?
シュマリの脳裏に、脳天を叩き割られる自分の姿が浮かんだ。
鈍く光る刃が、正確に自分の眉間に目掛けて来る。
「勝負ありだ」
何者かの声が、シュマリの耳朶を打った。
同時に、びたり、と片手半剣が止まる。
シュマリの目の前、触れそうなほど近くに、鋼の刃があった。
金属の持つ冷気が、自分の額に感じられる。
後、半瞬でも声が遅ければ、シュマリの頭は吹っ飛んでいただろう。
ふー、とアーツが息を吐いた。
「ち、もうちょっと持たせろよな、アーツ」
「一撃で決めろ。お前の闘法に二の太刀はないと言っているだろう」
「よーし、よくやった。読み通りだっ」
口々に、アーツとシュマリの戦いを見ていた傭兵連中が声を上げる。
それを見ていたアーツが、ぼそりと呟いた。
「賭けてたな」
「勿論」
屈託無く答える全員を、問い詰めてやろうかと思ったが、数の上でも、力量からも、そんなことは出来っこないので、ぐっと黙るアーツである。
何かを胸の奥に呑み込んで、片手半剣をシュマリの目の前から引く。
シュマリが、強張っていた身体から力を抜いて、溜め息を吐いた。
がしがしと、自分の頭を掻く。
「あーあー。何だ、あなた、結構やるのね」
ぴょこぴょこと、長い耳を上下させる。
そして、愛用の長剣を、地面に放るように置いた。
それだけでなく、自分のブレストメイルの留め金を外す。
「? 何してる?」
アーツの疑問に答える気配もなく、シュマリはあっという間に上半身を裸にして、夜気に晒した。
白い肌が、燃える炎に照らされて、艶かしい。
双つの膨らみが、想像以上に豊かで、男の本能を誘った。
「何って、賭けに負けたからね。これから一週間はあなたの処理をあたしが請け負うってわけ」
「賭け? そんなことは聞いてないぞ」
「うん、あなたには言ってないね」
「……」
シュマリの間髪を入れない答えに、アーツはそれ以上追及する気をなくす。
しかし、一つ気に掛かる疑問が浮かび、それを言葉にして、シュマリに訊いた。
「俺が負けたらどうなってたんだ?」
「あたしの小間使い」
「一週間?」
「ううん、一ヶ月」
流石にそれは横暴と言うか、理不尽ではなかろうか。
そう思うアーツだが、それを言葉にする前に、シュマリが唇を重ねてくる。
軽くアーツの舌先を舐め取ると、シュマリの顔が離れた。
「ごちゃごちゃ言わない。勝ったんだから」
「いや、しかしなあ」
尚も続けようとするアーツに、シュマリの表情に険が宿る。
冷たい視線で、アーツを見た。
「もしかして、亜人相手じゃ勃たないってクチなの、あなた?」
「それはない」
アーツの答えには何かを糊塗しようとする響きは無い。
実際、アーツには亜人への差別意識は全く無かった。
それは、寛容と言うよりは、無頓着な性分から来るものだろう。
「良いから、やっとけよ、アーツ」
「そうそう、賭けは賭けだしよ」
周囲の人虎やリザードマンが口々に好き勝手なことを言う。
アーツがそんな連中を余り好意的でない眼差しで見た。
しかし、虹色の鱗を持った砕蛟が言葉を続ける。
「知ってようがいまいが、お前は賭けに勝ったんだ。景品は受け取っとけ。でないと、ただ働きになっちまうぞ」
「む」
アーツが唸る。
報酬なしで動く、と言うのは傭兵にとってやってはならないことの二番目である。
一度でもそんなことをやれば、次から必ず足元を見られるからだ。
『剣の一振り、銅貨一枚』と言うのは、傭兵の命の安さを表す言葉だが、同時に、剣を握るなら銅貨一枚でもふんだくれ、と言う意味もある。
金以外に、傭兵の働きを測るものなど無いのだ。
因みに、傭兵がやってはならないことの一番は、仲間を裏切ることである。
これは、倫理観も人道も関係なく、戦場で後ろから狙われないための鉄則であった。
「分かったよ」
アーツが言う。
に、とシュマリが笑った。
「そう言うこと。最初から素直にしてたらいいのよ」
また、シュマリがアーツと唇を重ねる。
今度は、舌を奥まで差し込むような、深いキスだった。
ぐねぐねと、シュマリの舌が、アーツの口腔で動く。
アーツも、負けじとシュマリの舌の裏側を舐め取る。
シュマリの舌は、少しざらついていて、熱かった。
互いに、互いの粘膜を密着させ、滑らせる。
相手の吐息を喉の奥で吸い込み、代わりに、自分の吐息を送り込んだ。
唾液が、互いの口腔で混ざり合って、にちゃにちゃと音を立てる。
ふぅ、とシュマリが口を離した。
唾液が、繋がって細い糸になる。
「あなた、キス、上手ね」
「そいつは、どうも。それは、まあ、良いんだけどさ」
「何?」
「いや、周りが気になってさ」
アーツの言う通り、二人の周囲には未だに傭兵仲間が居て、面白そうに行為を見物していた。
手に手に酒を持っていて、『どっちが先に果てるか』等という賭けをしている者までいる。
それを見渡して、シュマリが、くすり、と笑った。
「別にいいじゃない。見られてる方が、どきどきするしね」
「いや、俺にはそういう趣味はないんだけど」
「じゃあ、尚更やってみれば? 新しい世界が拡がるかも」
勘弁してくれ、とアーツは思ったが、それには無頓着にシュマリがアーツを押し倒す。
鎧の留め金を器用に外し、その下のアンダーコートを脱がしていった。
アーツの上半身も、夜気に顕わになる。
「やっぱり逞しいわねえ」
シュマリが、そのようなことを言った。
あの、片手半剣を振り回すための筋肉が、きっちりとした凹凸を造って、上半身を構成している。
その厚い胸板に、シュマリがそろそろと貌を近づけた。
そっと、口づけをする。
そのまま、舌を這わせた。
何度か舌を上下させると、その胸の一点、乳首を軽く噛む。
「つ」
アーツが、声を発する。
シュマリの紅い髪が、揺れた。
「あ、痛かった?」
「うん、まあ。と言うか、男の胸を責めるのはどうかと」
その言葉に、シュマリが悪戯っぽく笑う。
指先で、脇の辺りをなぞった。
「男でも女でも、気持ち良い所はおんなじよ。そのうち慣れるわよ」
そう言って、再び、アーツの胸に、舌での愛撫を続ける。
ぞくぞくとした、くすぐったい感覚が、アーツの胸元に湧いた。
シュマリが、アーツの胸板を舐め上げるたびに、その豊かな乳房も、アーツの身体に押し付けられる。
動きに合わせて、双つの膨らみがその形を変えた。
その感触がまた、心地よい。
ふっ、ふっ、とシュマリの吐く息に熱が篭もっていった。
その熱がうつったかのように、アーツの身体も火照る。
ふと見れば、アーツの目の前で、シュマリの長い耳が揺れていた。
シュマリが呼吸するタイミングに合わせて、上下に動いている。
アーツが、ちょっとした好奇心で、その狐に似た耳の先端を噛んだ。
びくん、とシュマリの身体が震える。
「な、なにするのよ!」
「あ、わり。痛かった?」
「い、痛くはないけど……。その、耳は、駄目なの」
「ああ、そうなの?」
何となく、納得したような、しないような面持ちで、アーツは応えた。
気を取り直すかのように、シュマリの手が、アーツのズボンに伸びる。
ベルトを外し、ズボンをずらして、アーツのものを外に導いた。
「わ、大きいわねえ」
何処か嬉しそうに、シュマリが言う。
アーツのそれは、充分な硬度を持って勃ち上がっていて、ひくひくとわなないていた。
「入れるわよ……」
囁くように言って、シュマリが自分の腰を浮かせて、アーツの陰茎を自分の秘裂にあてがう。
シュマリの女の部分は、もう充分に濡れていて、アーツの亀頭の先端が触れると、粘ついた音を立てた。
「ん」
シュマリが、腰を下ろして、アーツの陰茎を、自分の胎内に導いていく。
アーツは、入り口で幾分かの抵抗を感じたが、そこを抜けると、途端に柔らかくて熱い感触に包まれた。
女の内部の襞が、アーツのものを締める。
ふ、ん、ふぅ
シュマリが、自分の膣内のものを味わうかのように、軽く腰を上下した。
ぷちゅ、ぷちゅ、とアーツとシュマリの繋がった箇所から、音が聞こえる。
その音に煽られたのか、その動きが徐々に激しくなっていった。
鍛えられて、引き締まった肢体と、豊かな曲線を描く乳房が、アーツの目の前で揺れる。
その光景と同じくらい、シュマリの膣内は、心地よかった。
暖かく、滑っていて、よく締まる。
その、自分のものを締めるリズムと合わせて動くものに、アーツは気付いた。
シュマリの、大きな尻尾である。
ふわふわとして、紅い光沢が美しかった。
そーっと、アーツが手を伸ばす。
人差し指と親指で輪を造るようにして、その尾を軽く握った。
「ひゃんっ」
シュマリの背が大きく反る。
ぎゅう、とシュマリの膣襞が、アーツのものを潰すぐらいに急激に締まった。
「いたたたたっ」
「な、な、なにするのよ、バカッ!」
叫び声が、同時に重なる。
互いの動きが止まって、荒い息のまま、顔を見遣った。
「もしかして、尻尾も駄目なのか?」
目尻に涙を溜めて、アーツが尋ねる。
食い千切られると思うぐらい、シュマリの内は一気に締まったのであった。
「う、うん。耳とか、尻尾は駄目」
「ちょっと、触っただけだぞ」
「ちょっとでも、駄目なの!」
よっぽど刺激が強かったのか、シュマリの頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。
それを見ていると、アーツの胸中に、何とも言えない感覚が湧き上がった。
「尻尾も、耳も、綺麗なのになぁ」
ぽつり、と言う。
特に他意がある訳ではなく、本当にそう思ったので、それが言葉になったといった風情の口調であった。
う、とシュマリの頬が更に赤く染まった。
上目遣いで、アーツを見る。
「そんなに、触りたい?」
「え、いや、駄目なんだろ」
アーツが、訊き返す。
暫しの間の後、シュマリは口を開いた。
「……強くしないんなら、良いわよ」
小さな声であったが、はっきりと、シュマリは口にする。
今度は、アーツが躊躇う番であった。
何と言っても、先刻のあれは大層痛かったのである。
しかし、シュマリの見事な毛並みの耳や、ふわりと膨らんだ尾を見ていると、そんな怯懦な感情など綺麗に消え去っていった。
「じゃあ、触るぞ」
アーツは言って、そろそろと指を伸ばす。
軽く握ってあの反応だったのだから、先ずは、触れるか触れないかの愛撫からが妥当だろう。
指先に、ふわりとした尾の、和毛の柔らかさが伝わってくる。
それを数度なぞって確かめて、徐々に触れている面積を増やしていった。
「ん、ん、んん」
シュマリの唇から、濡れた息が漏れる。
その膣道は、アーツのものを呑み込んだままで、吸い付くように蠢いていた。
両手で、抱えるようにして、アーツがシュマリの尾に手を廻す。
それも、無遠慮な掴み方ではなく、白磁の名品にするような、繊細な接し方であった。
ふぅぅ、とシュマリがアーツの首筋に細い息を吐く。
温かくて、艶を含んだ息であった。
そっと尾を撫で、同時に、シュマリの尖った乳首を口に含む。
それは、固くしこっていて、茱の実のようだった。
舌先で転がして、その感触と、きめ細かい肌の味を愉しむ。
口を離すと、乳首の先端が唾液できらきらと光って、随分と淫猥であった。
そのまま、今度は、シュマリの耳を、舌で愛撫する。
ふるふると、シュマリの肩が震えたが、先刻のような激しい反応は無かった。
その代わり、全身を預けるようにして、アーツにもたれてくる。
軽く、耳の縁を甘噛みしてみると、途端にシュマリの肉の襞が、濡れた音を立てた。
その襞の一枚一枚が、別の生き物であるかのように細かく動いて、アーツの陰茎を自分の奥に誘い込む。
こつん、と男根の先端が、シュマリの子宮口に当たった。
ぎゅっ、とシュマリの指が、アーツの肩を掴む。
アーツが、動きを止めた。
そうしてから、また、動きを再開する。
ぐち、ぐち、ぐち。
肉の襞を、肉の凶器が抉る音が響く。
シュマリの三角の耳を、アーツが口に含んだ。
鮮やかな赤い尾を指で梳く。
きゅうきゅうと、シュマリの内が締まった。
アーツが、腰を跳ね上げて、シュマリの子宮口に自分の亀頭を押し付ける。
肉の門を押し開け、そこから粘っこい精液が溢れ出た。
びくびくと、太い奔流がシュマリの子宮に注ぎ込まれる。
その、熱く、どろどろの性汁が、自分の胎を満たすのを感じ、シュマリは激しい快楽に痙攣した。
そして、荒い息と共に、アーツとシュマリは互いを抱きすくめて、その余韻に浸ったのであった。
「ねえねえ」
二人の行為が終わり、濡れた身体を拭いたり、着替えたりと言った後始末が終わってからのこと。
シュマリが、アーツの隣に座って、尋いてくる。
「んん?」
アーツが、酒が満たされた杯から口を離し、返事をする。
随分と月が傾いており、消えかかった篝火の周りには、酔い潰れた獣人やリザードマンが転がっていた。
その中には、『アーツとシュマリ、先にいったのはどちらか』を口論していた連中も居る。
静かになってよかったなぁ、と言うのがアーツの正直な思いであった。
「さっきさ」
シュマリが言う。
『さっき』というのは、アーツとシュマリが、まあ、いたしていた最中のことだろう。
「ちょっと、休んだとき、あったじゃない。どうして?」
「いや、どうしてって、言われてもな」
アーツが、酒を喉の奥に流し込んで、考えた。
特に意識しての行動ではなかったので、少々、脳内で自分の行動理由を検討してみる。
「まあ、何か、苦しそうだったし、ちょっと間を置いたほうが良いかと思ってさ」
そう応えると、シュマリの瞳が丸く見開かれた。
それから、直ぐに笑みの形に細められる。
「ふーん」
何故か嬉しそうに笑う。
その表情のまま、アーツを見詰めると、また、笑った。
「ふーん」
その、喜色が乗った貌で見られるのが、何やら気恥ずかしく、黙ったままアーツは酒を呷る。
そこへ、シュマリが酒を注いだ。
「ね、あなた、これからどうするつもり?」
「どう、とは?」
「だから、先の話よ」
「先?」
「手柄を立てて、どっかの諸侯に仕えたいとか、お金を貯めて、店をやりたいとか」
「んー」
アーツが、眉を寄せて、考える。
しかし、自分の胸中には何も浮かんでこなかった。
「よく、分からないなあ」
アーツが、飾らない口調で応える。
実際、よく分からなかったのだ。
「あたしは、あるわよ」
「先の話か」
「うん」
「何だ?」
「花屋をやるの」
「花屋?」
アーツが訊き返す。
傭兵が、稼いだ金で店をやるのは珍しい話ではないが、目の前のシュマリと花屋が、結び付かなかった。
「何よ、悪い?」
「いや、悪くはないけどさ」
アーツが、慌てて言う。
その様子を、暖かさに欠ける視線で見る、シュマリであった。
しかし、その視線も、直ぐに柔らかなものになる。
「ま、良いけどね。でさ、あなた、先のこと決まってないなら、あたしと一緒にお店をやらない?」
「は?」
「だからさ、花屋」
「俺が?」
「うん、あなたが」
シュマリの言葉に、グラジオラスや、百合や、菫の横で、鎧姿で佇む自分の姿を想像するアーツである。
似合わなかった。
「いや、俺は花のことなんか全然知らないんだけど」
「良いわよ、あなたは用心棒ってことで」
何で花屋に用心棒が要るんだ、と言う疑問がアーツの胸を過ぎる。
しかし、シュマリは屈託なく笑って、言葉を続けた。
「貴族に生まれて、傭兵やって、お金を貯めて花屋の用心棒。波乱万丈で面白い人生じゃない」
「そうか?」
「何でもあり、ってことよ。人生、何やったっていいんだから」
その、シュマリの表情には、自分の言葉に自信を持つもの特有の、何ともいえない輝きがある。
それを眩しい思いで見ながら、アーツはまた、酒を呷った。
「まあ、考えておくよ」
そのように、応えた。
何をやってもいい、か。
そう言うのも悪くないなと思う、アーツであった。
了
附記:
帝国貴族名鑑に拠れば、ガーランド家の五人の息子のうち、二人は戦死し、二人は戦闘中に行方不明となっている。一人生き残ったのは末弟であったが、戦地での負傷が原因で、二度と剣を握ることはなかった。その後、ガーランド家は男子に恵まれず、断絶した。
附記2:
園芸におけるガーランドを考案したのは、傭兵上がりの同名の花屋という説がある。しかし、信憑性は低いようだ。
是非、作家さんの今後の製作意欲のためにも感想や応援を、メールや拍手、BBSなどによろしくお願いします。 m(^о^)m
(拍手される場合作家さんの名前を始めに入れてくださると誰への拍手なのか特定できて尚嬉しいです♪)
-モドル-